
はじめに
今日のレクチャーでは、「説得力はどこからくるのか?」というテーマについて話していきます。ヒプノティック・ライティングの核心に迫る重要なトピックです。
まず、ヒプノティック・ライティングがどのように生まれたのか、その背景を知ることで、説得力のある文章の本質を理解しやすくなるでしょう。
ヒプノティック・ライティングの誕生秘話
ジョー・ヴィターレはヒプノティック・ライティングの考案者と言われています。彼はこのテーマに関する初めての書籍とそれに続く7冊の電子書籍を執筆しました。しかし、彼がこの技術を習得した方法はかなり独特だったようです。
ヴィターレが行ったことは次のようなプロセスでした。
まず、彼はジャック・ロンドン、マーク・トウェイン、シャーリー・ジャクスン、アーネスト・ヘミングウェイといった偉大な作家たちの作品に親しみました。時に笑いを誘い、時に恐怖心をかき立てる彼らの文章力に感嘆し、「どうしたらこのような文章が書けるのだろう」と疑問を抱いたのです。
同じ文字と単語を扱う人間でありながら、なぜ巨匠は古典を生み出し、多くの人は駄作しか書けないのでしょうか?この疑問がヴィターレの出発点となりました。
セールスライティングの研究
次にヴィターレが注目したのは、ロバート・コリアー、ブルース・バートン、ジョン・ケープルズといったセールスライターたちの手紙でした。彼らは同じ言語を使いながらも、不況下でさえ人々の財布のヒモをゆるめることができました。
「この有名なセールスライターたちは、なぜこんなことができるのだろう?彼らの文章の説得力はどこから来るのだろう?」
この好奇心が、ヴィターレを深い研究へと駆り立てたのです。
文学とセールスライティングの融合
ヴィターレは大学で英米文学を専攻していました。特にナサニエル・ホーソーン、ハーマン・メルヴィル、ジャック・ロンドン、マーク・トウェイン、ウィリアム・サローヤンらの作品を愛読していたそうです。大学時代を通じて文学の研究を行い、卒業後もさらに何年間か続けました。
その間も、彼は学んだ内容を自分なりにアレンジして小説や劇、詩を書き、それなりの評判を得ていったのです。1979年には、彼が書いた『The Robert Bivens Interview(ロバート・ビヴェンス・インタビュー)』という劇がヒューストンで上演され、ヒューストン劇作家フェスティバルで賞も獲得しました。
数年後、ヴィターレはセールスライティングの研究を始めます。発売中のマーケティングの書籍から絶版の希少本まで、手に入るものは片っ端から読んだと言います。特にロバート・コリアー著『伝説のコピーライティング実践バイブル』との出会いが彼の人生を変えたようです。また、ジョン・ケープルズの著作は彼にとって新たな世界への扉となりました。
学びと実践の繰り返し
ヴィターレは学んだことを実践する、というサイクルをひたすら繰り返しました。彼が書いたセールスレターは大失敗に終わることもありましたが、記録的なヒットをもたらすことのほうが多かったと言います。特に、MS-DOS用プログラム、原稿作成支援ソフトウェア『ソートライン(Thoughtline)』のために書いたレターは、今なお語り継がれているようです。
このように、文学とセールスライティングという2つの世界に属した経験を元に、ヴィターレは独自の文章術を開発し、後にそれを「ヒプノティック・ライティング」と名付けたのです。
これは一朝一夕でできた仕事ではありません。20年を超える修行の末に、そのレシピは生まれたのです。彼は『Unlimited Selling Power(果てしなく売れるセールス術)』を読んでやっと、それまでのすべての知識と経験が一体化したと語っています。
そしてその頃、ヴィターレはブームの火付け役となる1冊の本を書き上げました。彼はヒューストンで講演を行い、会場の奥でその本を販売していました。これが1990年代のことです。この本が、後に彼の初の電子書籍となり、今ではインターネット上で累計何万冊もの売上を記録しています。そう、『ヒプノティック・ライティング』です。
ヒプノティック・ライティングの本質
では、ヴィターレが伝えたかったことは何でしょうか?
平たく言えば、読み手の注意・注目を維持する文章は、すべてヒプノティック・ライティングだということです。催眠用語では、これを「覚醒トランス」と呼びます(これについては後ほど詳しく説明します)。
催眠の上級者向けの解説書『Hypnotic Language(催眠言語)』において、著者のジョン・バートンは次のように語っています。「あらゆるコミュニケーションは、情報の受信者を催眠トランスへ誘う」
ここで「誘う」という言葉に注目してください。文章の出だしから、読み手を退屈させる可能性もあるということです。作者にとって、退屈は避けたいトランスなのです。
逆に、話しかけた途端に聞き手がトランスに入る可能性もあります。しかし話がつまらなければ、聞き手の心はしだいに離れていくでしょう。
ヒプノティック・ライティングの定義
ヴィターレはヒプノティック・ライティングを次のように定義しています:
「ヒプノティック・ライティングとは、言葉を意図的に用いることで、製品やサービスを購入したくなるような集中した心理状態へ相手を誘導することである」
セールスライターやマーケティングコンサルタントとしてヴィターレが書く文章は、たいてい「売る」ことを目的としています。したがってヒプノティック・ライティングとは、お金が手に入るまで読み手の注意を維持し続ける文章と言えるでしょう。
正直に向き合うこと
これを「身もふたもない」と思わないでください。ヴィターレは結果重視の人間だと自認しています。そして、あなたが知りたいのも、売るための文章の書き方でしょう。そうでなければ、このコースを今受講しているはずがありません。
お互い正直になりましょう。あなたが知りたいのは、あなたの製品やサービスを見込み客に買ってもらうための文章の書き方です。別に怪しげな宗教や悪徳商法を始めるつもりはないでしょう。自分の製品やサービスがいいものだと信じているから、まっとうな人がみなやっているように、それで人の役に立ち、お金を稼ぎたいのです。
そういうことですよね?僕も同じです。
実践:あなたの説得力を考える
では、ここで少し考えてみましょう。あなた自身の文章の説得力はどこから来ていると思いますか?
- 過去に書いた文章の中で、最も反応の良かったものは何ですか?
- なぜその文章が人々の心を動かしたと思いますか?
- あなたが影響を受けた作家や文章はありますか?
これらの質問に答えることで、あなた自身の「説得力」の源泉が見えてくるかもしれません。
まとめ
今日のレクチャーでは、ヒプノティック・ライティングがどのように生まれたのか、そしてその本質について学びました。
ジョー・ヴィターレが20年以上かけて文学とセールスライティングの両方を研究し、実践した結果として生まれたのがヒプノティック・ライティングです。その核心は「読み手の注意・注目を維持し、行動へと導く」ことにあります。
アーネスト・ヘミングウェイの言葉を借りれば、「私のねらいは、見たこと、感じたことを最善かつ最も単純な形で書き留めること」です。
説得力のある文章とは、複雑なテクニックを駆使したものではなく、シンプルで明確、そして読み手の心に響くものなのです。
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